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広島高等裁判所岡山支部 昭和49年(く)11号 決定 1974年7月02日

主文

本件即時抗告を棄却する。

理由

本件即時抗告の理由の要旨は、原裁判所は被請求人が昭和四五年七月二八日岡山地方裁判所において、恐喝・傷害・暴行罪により懲役一年六月に処せられ四年間右刑の執行を猶予され、かつ右猶予の期間中保護観察に付されたものであるにかかわらず、右猶予の期間内に暴力行為等処罰に関する法律違反罪および道路交通法違反罪によりそれぞれ罰金に処せられたのみか、前後一五回にわたり覚せい剤取締法違反、暴力行為等処罰に関する法律違反、威力業務妨害、傷害、銃砲刀剣類所持等取締法違反の各罪を犯し、これら各罪について既に控訴審の有罪判決がなされており、また右各罪を犯したことは被請求人も認めているところであつて、これらの事実によれば、被請求人には刑法二六条の二第一号、第二号に該る事由があるとして、前記刑執行猶予の言渡を取り消す旨決定した。しかし、被請求人には刑法二六条の二、第二号にいうところの情状重き遵守事項違反はない。元来、保護観察の実施に当つてはこれを担当する国家機関において真摯な努力をしたのにかかわらず、対象者がこれを受容しない場合にはじめて保護観察を打ち切ることができるのであり、不十分な指導援護しかしていない場合にまで保護観察を打ち切つて刑の執行猶予の取消請求を認めるべきではないところ、本件においては被請求人は保護観察機関の指導助言を拒むこともなく更生の意欲も十分有していたのであり、むしろ保護観察機関こそ不十分な指導援護しかしていないのであるから、被請求人に情状の重い遵守事項違反があつたというのは保護観察機関の責任転嫁であり、このような場合には刑の執行猶予の言渡の取消請求を認めるべきではない。また、被請求人につき刑法二六条の二第二号の事由が存するとしても、執行猶予を取り消すか否かは、被請求人の将来における更生の能否を見とおす展望的判断のもとになされるべきであるところ、被請求人は保護観察の継続によつて更生しうる可能性があるから、この点につき配慮していない原決定はその裁量を誤つている。よつて原決定を取り消し、検察官の申立を棄却する旨の決定をされたい、というにある。

よつて一件記録を調査して案ずるに、執行猶予者に対する保護観察に当つては、本人に本来自助の責任があることを前提としてこれを補導援護するとともに、本人が一定の住居を定め善行を保持する等遵守事項を守るよう指導監督することによつて行なわれるものであり、その実施に当つては、努めて本人の更生意欲を助長するようにするとともに、遵守事項の違反につながりやすい点を本人に自覚させ、適切な指示を本人に与える等の必要な措置をとることが期待されているのである(執行猶予者保護観察法二条、五条、七条)から、保護観察所としては、保護観察を実施するに当つては、画一的にすることなく、本人にもつともふさわしい方法により有効適切な補導援護・指導監督をなすべきは当然であつて、かかる点につき真摯な努力工夫をなすことなく、いわば安易な処置に終始しながら、かえつて対象者に更生の意欲がないとして刑執行猶予の取消を申立てるようなことが許されるべきでないことはもちろんである。そこで、特にこの点に留意しながら記録を調査すると、被請求人が保護観察に付されたのちの経過として大略次のような事実が認められるのである。すなわち、

一、被請求人は、昭和四五年七月二八日保護観察付刑執行猶予の言渡を受けると即日岡山保護観察所に出頭し、保護観察官から判決確定前の環境調査調整、保護観察中の注意事項についての説示を受け、遵守事項を守ることを誓約し、住所(岡山市島田本町)届をしたこと、その際特に、「粗暴な性格を改めること、良友を選ぶこと」を注意されたこと、

二、当初被請求人は、一応稼働意欲を示していたが、持続せず、担当保護司と十分な連絡をとらず、かつ、届出住所に定住していなかつたため、その所在確認に手を尽くしていたが、被請求人が潜水作業に従事し各地を転々としていたため、ようやく昭和四六年一〇月に至り、同市中納言町に住む母を介して連絡を保つことができるようになり、同年同月一三日保護観察官が被請求人に面接し、特に、住居の移動、旅行等の届出を怠らないこと、被請求人から進んで保護司に連絡をとるよう心がけること、粗暴な行ないをしないこと、を厳重に注意したこと、

三、しかし昭和四六年一一月から同四七年二月まで、被請求人が保護司宅に来訪したことはなく、被請求人の母を介して被請求人から進んで連絡をとるよう伝言してもその効なく、保護司は右母を介してようやく被請求人の近況を把握しえていたものであること、

四、その間被請求人は、

1、四六年一二月二八日、暴力団宮本会組員北野原啓泰から覚せん剤粉末〇、三グラムを無償で譲受け、

2、同四七年一月五日右宮本会組員田中恭二とともに、日本刀を不法に所持して岡山市内のクラブ、割烹店一ケ所に押しかけ、照明器具、什器備品等を手当り次第に損壊してその業務を妨害し、かつ店員に傷を負わせ、

3、同四七年二月一八日ないし二〇日の間八回にわたり覚せい剤を注射して使用し

これら事実によつて同年二月二〇日ごろから四月二八日保釈々放されるまでの間、逮捕勾留され、かつ右各事実につき同年三月一日付、三日にてそれぞれ起訴されたものであること、

五、同年五月一五日保護観察官は被請求人に面接し、保護観察中にもかかわらず右の如く再犯がなされたことにつき厳重に本人の自覚を促すとともに、あらためて1、保護司とよく連絡をとり、毎月二回は必らず訪問すること、2、住居変更・一ケ月以上旅行の際は所定の手続をとること、3、悪友と交際しないこと、4、覚せい剤を使用しないこと、5、医師の指示に従い健康に注意することを指示したこと

六、しかるに同年六月一六日ころ、被請求人は前記宮本会組員山崎健とともに倉敷市内において手形の取立にからみ暴力行為等処罰に関する法律にふれる行為を犯し、その際同会組員小野省三も同行していたものであること、

七、被請求人は同年七月一一日ごろから同年八月一四日ごろまで岡山市内の済生会病院に肝臓障害によつて入院し、さらに同年一一月八日から同月二〇日ごろまで同市内の岡山第一病院に髄膜炎後遺症によつて入院する等、健康がすぐれなかつたが、勤労意欲も乏しかつたと認められ、担当保護司宅を来訪することも少なかつたこと、

八、そして、前記五、の犯行が発覚して逮捕され、同年一二月二〇日倉敷簡易裁判所において罰金三万円に処せられたこと、

九、右八、の事実を知つた保護護察官は、昭和四八年一月五日被請求人に面接し、再度の非行につきたしかめたうえ、従前の遵守事項を説示して再確認させ、必らず守るよう指導し、あわせて健康の回復につとめ、住居変更についての手続を怠らないよう指導したこと、

一〇、しかるに被請求人は同年三月二〇日、暴力団侠唯会(前記宮本会の後身と目されるもの)組員藤木義雄とともに、岡山市内のキヤバレーにおいて、暴力団景山組員と抗争し、被請求人は短刀一振を携行し、これを振つて相手を傷つけるに至つたこと、

一一、そして、右犯行直後から所在不明となつていたが、同年四月一八日警察署に出頭逮捕され、同年五月九日起訴され、翌六月八日保釈釈放されたこと、

一二、保護観察官は、同年六月二二日被請求人と面接し、事実関係につき種々問いただし、弁解を聞いたうえ、刑の執行猶予の取消を申出ることを考慮して質問調書を作成したこと、

一三、その後被請求人は一応岡山市内の岩谷商会(自動車解体業)で働いていたが、同年一〇月二三日津山市内において普通乗用自動車を無免許で運転しかつ法定速度違反を犯し、同年一一月一九日岡山簡易裁判所において罰金三万円に処せられたこと、そして、同年一二月七日岡山地方裁判所において前記四、1、2、3および一〇、各犯行につき懲役二年六月(未決八〇日算入)に処せられ、即日収監されて現在に至つているところ、右第一審判決に対し昭和四九年四月一八日当裁判所において、原判決破棄のうえあらためて同一の刑に処せられ、この判決に対し被告人において目下上告中であることが明らかである。そして、右に詳述したところによると、被請求人は保護観察に付せられて善行を保持すべく誓約し、悪友との交際を絶つて自力更生すべきであるにかかわらず、暴力団関係者と交際を続けしかもこれらとともに一再ならず粗暴な犯行を犯し、そのつど保護観察官、担当保護司から強力な指導援護、助言監督を受けながらその期待に背き、自から遵守事項に違背していることが明白であつて、遵守すべさ事項を遵守せずその情状重きときにあたるといつて差支えなくかつ刑法二六条の二第一号の要件にもあたるものであり、これと同旨の原裁判所の判断は相当として当裁判所も支持することができる。所論は、保護観察機関において被請求人に対し真剣な指導援護をしていない旨主張するが、一件記録を精査してもそのような形跡は毫未も認めることができず、むしろ被請求人において保護司宅への往訪・連絡を怠り、自助の責任があることを忘れて、再三与えられた更生の機会を生かさず、安易に犯行に走つていたと認められるのであつて、到底所論の如く被請求人が更生の意欲を有していたとは考えられない。そして、前述の長期にわたる保護観察中の被請求人の行状、行動傾向、友人関係、家庭環境等一件記録にうかがえる諸般の状況を総合すると、被請求人の将来をいかに善意に判断しても、保護観察を継続することによつて更生しうるとは解されないから、この点に関する所論にも賛同できず、原裁判所がその裁量を誤つたともいえない。されば、原裁判所の判断を論難する所論はすべて理由がないといわざるをえない。

よつて、本件即時抗告は理由がないので、刑事訴訟法四二六条一項後段に則り、これを棄却すべきものとし、主文のとおり決定する。

(千場義秋 谷口貞 大野孝英)

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